- ゆく河の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。よどみに浮かぶ水泡(うたかた)は、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例(ためし)なし。世の中にある、人と栖(すみか)と、またかくのごとし。-『方丈記』より
 関東にある企業の研究所に勤めた後、山口にある実家のお寺に僧侶として戻ってきた筆者のブログ

言語は難しい2022年06月15日 14:33


『宇宙際タイヒミュラー理論』とは、数学の超重要難問『abc予想』の解を導くものとして、世界中から「天才数学者」と称される望月新一博士が提唱された理論です。
 その論文は700ページ以上、約7年間の査読(論文が正しいかどうかの検証)を経て学術誌に掲載された(つまり正しいと認められた)この理論について、NHKが特集番組を放送したので録画していました。
 『abc予想』が証明されればいろいろな数学上の難問が解けるということですが、この「望月論文」の正否について「数学界を2分しての大激論」となっているそうで、見た感想はまるで宗教論争?でした。
 『宇宙際タイヒミュラー理論』の論文はその量の多さに加えて、「宇宙」「劇場」「エイリアン」といった数学の論文とは思えないような単語がでてきて「別の惑星から来た論文」と言われたそうです。
 印象的だったのは、肯定派懐疑派共に「言葉」を問題にしていたことです。
 肯定派の加藤文元博士は「現今の数学との違いを言語化できていない。新しい数学の言語体系をつくらなければいけないのではないか」とインタビューで話されていました。
 一方、懐疑派の海外の著名な数学者は「誰かが望月の理論を分かるように説明する言葉を見つけてくれればいいのですが・・・」と話されています。
 私が「宗教論争?」と思ったのはこういったところで、数学を仏教に置き換えたら同じことが言えるんじゃないかと。。。
 つまり、「言葉」を発する方と受け取る方で認識に違いがあって、言いたいことが伝わらない。
 「新しい言語体系」「分かるように説明する言葉」
 仏教を伝えていく私にとって、考えるべきキーワードです。



物理学と仏教2015年12月16日 23:04

 私的には、
 物理学と仏教はとても似ていると思ってます。
 物理学で世界の現象を顕わす基本的な定理は、素人からすると一見単純な数式ですが、それを展開すると、宇宙の始まりから未発見の素粒子の予言まで様々な解が得られます。
 仏教の基本的な教えも、非常に簡単な単語(言葉)で顕わされ、それには世界の真の姿が含まれていますが、それを理解(会得)するために様々な述語が費やされています。
 お互い、間違った展開をすると間違った解が得られるというところも、同じです。
 (物理学者からしてみれば、一緒にするなっ。怒!! でしょうが・・・)

 ところで、
 アメリカの物理学者マレイ・ゲルマン(1969年ノーベル物理学賞)はハドロン粒子の分類法に「八道説」と名付けています。そうです、仏教の「四諦八正道」からとったものです。(本人は「冗談」のつもりだったそうです(※)が、私はこれは仏教に興味があった事に対する照れ隠しだと勝手に思ってます。)

閑話休題

 物理学では得られた解が正しいか検証を繰り返し、また実験でそれを確認しなければなりません。(そして、ノーベル賞)
 仏教も、それが「仏の教え」から正しく展開されているか検証しなければいけないでしょう。物理学の実験が莫大なエネルギーと、とてもとても大きな努力が必要なように、仏法の実証が簡単に得られるわけはないし、逆に「簡単に得られる」という声には注意するべきです。(そして、成仏)

※参考文献
 M・カク、J・トレイナー、久志本克己 訳、広瀬立成 監修、アインシュタインを超える-超弦理論が語る宇宙の姿、講談社(1988)

物質のすべては光2015年12月12日 23:49


フランク・ウィルチェック、吉田三知世 訳、物質のすべては光-現代物理学が明かす、力と質量の起源、早川書房(2009)

 何だか、宗教か哲学関係の本のようですが、正真正銘「物理学」の本です!
 それもそのはす、著者はノーベル物理学賞(2004)のフランク・ウィルチェックで、当時最新の素粒子物理学(量子色力学)の「読み物」です。
 原題の「The Lightness of Being」は著者いわく、『存在の耐えられない軽さ(The Unbearable Lightness of Being)』をもじったとの事。これには「だじゃれ」も含まれていて、今や物理学では物質の根源は「光」の概念で説明されるということで、「存在のあかるさ」という意味も含んでいるそうです。
 しかし、それを「物質のすべては光」という邦題にした、翻訳者にも感動です。「訳者あとがき」に仏教要語が使われているので、意識してつけられたのでしょう。

 さて、
 常日頃「光、光、」と連呼している浄土真宗僧侶かつ科学大好きの私としては、「物質のすべては光」と見れば読まないわけにはいきません。難しい数式等はほとんどなく、例え話が豊富で物語風に書かれて、近代物理学史的な部分もあります。
 しかし、内容ははっきり言って難しいです。物理学(特に量子力学)の知識がないと、すんなりとは読み進められないです。その代わり、著名な(理論)物理学者や「四つの力(重力、電磁気力、弱い力、強い力)」の統一に関する状況を知っていたならば、とても面白く読めると思います。近年、ノーベル物理学賞の日本人受賞者が続いた事もあり、聞き覚えのある単語が沢山でてきます。

 今の物理学では「無」というのは「何もない」わけではないと考えられています。本書の記述を使うと
 [無]→クォーク+反クォーク+エネルギー
になるそうです。かといってこれらの寿命は非常に短いので「有」となるほどではない(だから[無]と表記される)のです。
 「無」でも「有」でもない。どこかで良く聞くセリフです。
 また、世界は「マルチカラーの多層構造」だそうですよ。「仏説阿弥陀経」の世界と重なりませんか!?

 ところで、
 物質の「もと」をどんどん探っていくと「光」に近い概念になるということは、私たちは「光」で出来ているということでしょう。
 「光(の場)」から生まれて、死んだら「光(の場)」になる。
 やっぱり、私たちは「浄土」から来て、「浄土」に還るのです!!!

(章題)
原書の題について
読者のための手引き
第1部 物質の起源
 第1章 「これ」に取り組む
 第2章 ニュートンの第ゼロ法則
 第3章 アインシュタインの第二法則
 第4章 物質にとって重要なこと
 第5章 内側にいたヒドラ
 第6章 物質のなかのビット
 第7章 具現化した対称性
 第8章 グリッド(エーテルは不滅だ)
 第9章 物質を計算する
 第10章 質量の起源
 第11章 グリッドの音楽-二つの方程式のなかの音楽
 第12章 深遠な単純さ
第2部 重力の弱さ
 第13章 重力は弱いのだろうか?実際にはそうだ
 第14章 重力は弱いのか?理論的にはノーだ
 第15章 ほんとうにすべき質問
 第16章 美しい答
第3部 美は真なるか?
 第17章 統一 セイレーンの歌
 第18章 統一 ガラスを通して、ぼんやりと
 第19章 擁護可能性
 第20章 統一♥SUSY
 第21章 新しい黄金時代の予感
エピローグ つるつるした小石、きれいな貝殻
謝辞
補遺A 粒子は質量を、世界はエネルギーを持っている
補遺B 多層構造で多色(マルチカラー)の宇宙超伝導体
補遺C 「間違ってはいない」から(たぶん)正しいへ
訳者あとがき
図版等出典
用語解説
原注
(文庫版は「訳者あとがき」の代わりに「解説」(横山広美氏)になります)

三千大千世界(2)2014年01月27日 20:50

 仏典に「三千大千世界」という言葉があります。

 古代インドでは、須弥山(しゅみせん)を中心として我々の住む世界があるという世界観をもっていました。(「金輪際」のところで触れましたが)
 その「須弥山世界」を一つの世界として、1000集まったものを「小千世界」、さらにこの小千世界を1000集めた世界を「中千世界」といい、中千世界をさらに1000集めたものを「大千世界」といいます。
 この大千世界は,大・中・小の3種の千世界から成るので「三千大千世界」(三つの千世界から成る大千世界)と呼ばれます。つまり、1000の3乗=10億の世界が「三千大千世界」です。

 この「三千大千世界」が一仏の教化する範囲ということです。

 10億の世界を教化するなんて、壮大な仏法を示す表現のように思えますが、我々は脳によって認知される「自分の世界」に住んでいると考えたらどうでしょう。
 どんな世界に住んでいようと、我々を教化するはたらき・・・それが仏法です。

 今や地球の人口は60億人以上ですので、三千大千世界では足りません。しかし、心配には及びません。「ガンジス川の砂の数ほどの仏」がいる。これも仏教の世界観です。


参考文献
 株式会社岩波書店、岩波仏教辞典第二版(2004)

三千大千世界(1)2014年01月24日 20:35

 さて、
 私は全てのものを愛する博愛主義なので、「仏教」「生理学(脳・神経)」「心理学」の本を同時に(交互に)読んでいる(合間に動物行動学みたいな本とかも)のですが・・・・
 (よーするに、集中力と節操がない)
 つくづく、(以前にも書きましたが)我々は「自分の脳内世界」に住んでるんだな〜と思います。もちろん物質的なものは一つ(共通)なのですが、その「捉え方」で個人のバリエーションができるというか。

 例えば、
 二人で同じ風景を見ていても、興味を持っているものによって認知・記憶される事柄(質・量)が変わります。ということは、後でその風景を思い出したときに、その二人の見た風景(世界)は違ったものになります。そんなにかけ離れたものにはならないと思いますが、
『「同じ風景を見てたのだから、私と同じだろう」と思ったら大間違い』
 くらいには、違っている方が多いと思います。(興味の対象の傾向が極めて近いと、同じような「脳内世界」になる可能性は当然ありますが。)そうした積み重ねで「私が生きている世界=自分の脳内世界」がつくられていく・・・。

 ニュースを見てると、「なんでこんな事するんだ??」って事ばかりですが、みんな「自分の脳内世界」に生きているからそうなっているんでしょう。
 その「脳内世界」が「脳内世界の中央値」(多くのヒトの脳内世界が極僅かな違いしかない常識的世界とでも言いましょうか)とずれている度合いが大きいほど「理解できない変な人」になっちゃうんじゃないでしょうか? (時代や地域で「常識が違う」のもこういった理由からかな〜?)

 でも、本人は「自分の脳内世界」で一生懸命生きているのでしょう。

 会社でもそういうヒトいませんか? 
 もちろん、自分の「自分の脳内世界」の方が中央値からかけ離れているという可能性もお忘れなく。

原発どうなる?2013年02月18日 21:40

さて、
「アベノミクス」以来、「上関原発できるんじゃぁ・・・?」という不安げな声が聞こえてきます。

 全日本仏教会は「脱原発」を打ち出していますが、ただ原発に反対しているだけだと、無責任にみえちゃいますよね。

「私たち僧侶は電気製品使ってません!」というなら別ですけど。

 もちろん、
 「欲を断てというわけでなく、欲望を抑えようという方向で・・・」
 なのですが、
 「僧侶が一番欲深い(日本は)!!」ってイメージじゃないかしら?!?
 あ〜、耳が痛い・・・。

 ここは思い切って、各宗派の本山が末寺から集めているお金を出し合って、

 「次世代クリーンエネルギー研究所(仮)」を設立するのはどうでしょう!!

 博士の就職難が言われているので、優秀な研究者が集まるんじゃないかと。そうしたら、各電力会社が適当に誤摩化している所とかも指摘できちゃったりして、面白いかも。


 片付け物をしていたら、何十年か前に中国電力が作成した「上関原発建設推進プロパガンダパンフ(私が命名)」が出て来たので、こんなことを思いました。

 「日本では原子力発電所の周辺に被害がでたことありません。」(キリッ)

 という文字がむなしい・・・

秋の永代経法要終了2010年10月08日 23:15

 雨にも関わらず、多くの方がお聴聞にこられました。2日間全4席の法要が無事終了。
 御講師とは控え室で、以前ここで紹介したリチャード・ドーキンスの著作「神は妄想である」の話で大盛り上がり。「ドーキンスが浄土真宗の教えを聞いたら、本を書き直すんじゃない?」みたいな冗談を言い合ったり(笑)。。。前の仏教講習会の御講師とは、物理学(量子力学)と仏教の話をしましたし、浄土真宗と現代の科学っていうのは、共通点というとちょっと変ですが、なにか似通った匂い(?)がします。

チリ地震で地球が変形2010年03月02日 23:44

 CNN.co.jpによると、NASAの科学者が「チリ地震の影響で、地球の形がほんのわずか変形し、地軸が約8センチずれた」と発表したそうだ。その結果、「1日の長さが100万分の1.26秒短くなった可能性がある」らしい。
 しみじみと、無常の世界・・・。

「少欲知足」で長生き?2010年01月18日 22:27

 ちょっと前の話ですが、SCIENCE誌に「カロリー制限はアカゲザルの発病と死を遅らせる」という論文が発表されました。私は購読契約していないので、Abstract(要約)しか読む事ができないのですが(^^;)、次のようなことでした。
 アカゲザルを通常の餌のグループ (対照群)と、栄養失調のない範囲でカロリー制限したグループ(CR群)に分けて20年間飼育したところ、対照群の50%が死んだ時点でCR群は80%が生きており、また、CR群では糖尿病、癌、心血管系疾患、脳萎縮といった老化に関連する疾病の発症率も減少した。とのこと。
 昔からマウス等では同じようなことが言われていたのですが、霊長類では初めてみたいです。全文が読めないので、細かな事までは分からないのですが(重ね重ねm(_ _)m)、少食が長生きの秘訣らしいですね。

 さて、仏教には「少欲知足」という言葉があります。浄土真宗の根本経典である「仏説無量寿経」に書かれているのですが、「欲が少なく満足することを知っている」ということです。なんだか通じるものがありますね。食欲に限らず、欲を肥大化させるとろくな事にならないのは、過去を振り返ってみれば明らかです。
 少食で長生きするかも、って事なので、更にちょっと広げて「少欲知足」でいきましょう!!

参考文献 
 Ricki J. Colman et al., Caloric Restriction Delays Disease Onset and Mortality in Rhesus Monkeys, SCIENCE, Vol. 325. No. 5937, pp. 201 (2009)
 浄土真宗聖典(注釈版第二版)、本願寺出版社(2007)