- ゆく河の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。よどみに浮かぶ水泡(うたかた)は、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例(ためし)なし。世の中にある、人と栖(すみか)と、またかくのごとし。-『方丈記』より
 関東にある企業の研究所に勤めた後、山口にある実家のお寺に僧侶として戻ってきた筆者のブログ

「無知の壁」2015年09月26日 01:14

 いわゆる対談形式の本ですが、『バカの壁』(実は私は『バカの壁』は読んでいないので使いにくいです・・・『唯脳論』にしておこうかしら。でも『バカの壁』の方が知名度高そうだし・・・)の養老孟司博士とテーラワーダ(上座)仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老の対談に、インタビュアーとして釈徹宗氏が出演という、私にとっては大興奮(笑)のコラボレーションです。

 予想通り、中身の濃い対談が繰り広げられてますが、それ故に話題に関してある程度の知識が必要だと感じました。

 例えば、冒頭から養老博士が、

 『多くの方が、ごく普通の常識としては「思う」のが先であり、後から行動すると思っています。たとえば「喉がかわいたと思ったから水を飲む」と思っている。しかし、脳を測ってみると、「思う」のは後です。皆さん方の脳の方が、まず水を飲むほうにはっきりと動き出し、半秒ぐらい経ってから「水を飲みたい」という意識がおこります。』

 という衝撃的な話をされますが、あまりに普段の意識と違いすぎるので、これがベンジャミン・リベットが実験から導きだして発表したものだと知らないと、
 「またまた〜、養老先生、哲学的すぎー・・・」みたいになりかねないんですよね。

 スマナサーラ長老のお話も、とても勉強になります。仏教の基本ゆえに。また、こういったことも言われています。

 「現代科学を背景にして仏教の真理を語る場合は、大勢の人々が興味を持つだろうと思います。そのときはお寺を閉めることができます。」

 さすが、、、テーラワーダ仏教の長老です。

 私は科学の世界にしばらくいましたが、現代科学と仏教はすごく親和性が高いと思っています。しかし、それゆえに話し方には十分気をつけないといけません。

 ある人「創造主がはじめに『光りあれ!!』と申されました。それは、ビッグバンのことです。(だから聖書は正しい!!)」
 私「(えー・・・)」

 みたいには、なりたくないですから。
 でも、スマナサーラ長老のこの発言を見て、ちょっと勇気をもらいました。(お寺を閉めるという意味ではないです。念のため・・・)

 では、章題の紹介です。

 第一章「自分」という壁
 第二章「死の壁」と「世間の壁」
 第三章「自分」の解剖学
 第四章「転換」は克服のコツ
 第五章 信仰より智慧で自分を育てる

 しかし、「信仰より智慧で自分を育てる」なんて、よその宗教者が聞いたらなんて言うでしょうね。
 仏教はこういうスタンスだから、リチャード・ドーキンス著の『神は妄想である』の宗教のカテゴリーには仏教が入ってないし、ある事典には「宗教でもなく哲学でもない仏教は、・・・」なんて書かれるんですよね。テリー・イーグルトンも『宗教とは何か』で仏教を誤解しているし。


 養老孟司、アルボムッレ・スマナサーラ、釈徹宗、無知の壁、(株)サンガ(2014)


参考文献
 リチャード・ドーキンス(垂水雄二 訳)、神は妄想である、早川書房(2007)
 ジャック・ブロス(小潟昭夫訳)、世界宗教・神秘思想百科、JICC出版局(1993)
 テリー・イーグルトン(大橋洋一、小林久美子 訳)、宗教とは何か、青土社(2010)